『ライブアライブ』は、1994年にスーパーファミコンで発売され、2022年にNintendo SwitchでHD-2Dリメイクされた名作RPGだ。
7つの時代を舞台にしたオムニバス形式の物語の中でも、「中世編」は特に強烈な印象を残す。
この章の主人公、オルステッドは、正義感溢れる勇者から絶望の果てに「魔王オディオ」へと堕ちる。
その過程はあまりにも壮絶で、プレイヤーの多くが「オルステッド、かわいそう」と心を痛める。
本記事では、オルステッドの悲劇性を徹底的に掘り下げ、彼がなぜこれほどまでに同情を集めるのか、ストーリーの詳細、キャラクターの動機、テーマ性を交えて考察する。
以下、ネタバレを含むため、未プレイの方は注意してほしい。
中世編は、ルクレチア王国を舞台に、騎士オルステッドの冒険を描く。
彼は武闘大会で親友ストレイボウを破り、王女アリシアとの結婚の権利を獲得する。
だが、祝宴の夜、アリシアが魔王にさらわれ、オルステッドはストレイボウ、かつて魔王を倒した勇者ハッシュ、賢者ウラヌスとともに魔王山へ向かう。
魔王を倒したかに見えた一行だが、ここから悲劇が始まる。
ストレイボウの裏切り、王の殺害、国民からの糾弾、アリシアの自死――全てを失ったオルステッドは、「魔王など…どこにもいはしなかった…」と呟き、自ら「魔王オディオ」を名乗り、人間への復讐を誓う。
この物語は、典型的なRPGの「勇者と魔王」の枠組みを逆転させ、勇者自身が魔王となる過程を描く。
オルステッドの悲劇は、単なるストーリーの展開を超え、プレイヤーの心に深い共感と哀れみを呼び起こす。
オルステッドは、正義感と純粋さに満ちた騎士だ。
武闘大会ではストレイボウに勝利するが、彼を侮辱せず、友情を重んじる。
リメイク版のボイスでは、彼の声に誠実さと熱意が込められ、プレイヤーに「理想の勇者」として映る。
しかし、この純粋さこそが、彼を悲劇へと導く。
オルステッドは他人を信じすぎ、裏切りの可能性を見抜けない。
彼の純粋さは、悲劇の火種でもあったのだ。
オルステッドの悲劇の第一の要因は、親友ストレイボウの裏切りだ。
ストレイボウは、オルステッドへの劣等感とアリシアへの恋心から、魔王山で策略を巡らせる。
彼はアリシアを誘拐し、オルステッドを罠にかけ、さらには王殺しの罪を着せる。
ストレイボウの「オレが欲しかったものは…いつだって…お前が持ってた…!」という台詞は、彼の嫉妬の深さを露わにする。
オルステッドにとって、ストレイボウは信頼の象徴だった。
それゆえ、親友の裏切りは、彼の心を粉々に砕いた。
アリシアの態度も、オルステッドの悲劇を加速させる。
魔王山で再会したアリシアは、ストレイボウに操られ、オルステッドを冷たく拒絶する。
彼女の「あなたには負ける者の悲しみなどわからないのよっ!」という言葉は、オルステッドの心を深く傷つける。
リメイク版では、彼女がストレイボウに依存し、オルステッドを「知らない人」と呼ぶシーンが追加され、彼の孤独感を強調する。
アリシアの自死は、オルステッドにとって愛と希望の完全な喪失だった。
彼女がストレイボウを選んだ瞬間、オルステッドの世界は崩れ去った。
オルステッドが王殺しの濡れ衣を着せられ、ルクレチアの民から石を投げられるシーンは、中世編の最も痛ましい場面の一つだ。
彼は民を守るために戦ってきたのに、「魔王の手先」と罵られる。
リメイク版のボイスでは、民の憎悪に満ちた叫び声が響き、オルステッドの絶望が伝わってくる。
この裏切りは、彼の正義と誇りを根こそぎ奪った。
信頼していた民からの拒絶は、彼を人間不信へと突き落とした。
リメイク版で追加された「赤い瘴気」は、憎しみに囚われた者に現れる視覚的要素だ。
ストレイボウやオルステッドが瘴気に呑まれる描写は、彼らの心が憎しみに支配されたことを示す。
魔王山の魔王像は、この憎しみを増幅する装置として機能した可能性がある。
オルステッドの絶望は、彼自身の心だけでなく、魔王像が引き起こした憎しみの連鎖によっても深まったのだ。
オルステッドの悲劇の根底には、彼の純粋さがある。
彼はストレイボウを疑わず、アリシアを信じ、民のために命を賭けた。
しかし、この純粋さは、裏切りや拒絶に耐える強さを欠いていた。
プレイヤーは、彼が裏切りに直面し、徐々に心が壊れていく過程を見ることで、純粋な心が踏みにじられる痛みに共感する。
彼の脆さは、誰もが持つ人間性の弱さを映し出し、プレイヤーの心を揺さぶる。
中世編の終盤、オルステッドは全てを失う。
親友、愛する人、民の信頼、そして正義そのもの。
彼が「魔王オディオ」を名乗る瞬間、「人間など…いなくなってしまえばいい!」という叫びには、深い孤独と絶望が込められている。
このシーンは、プレイヤーに「もし自分が全てを失ったら、同じ選択をするかもしれない」と考えさせる。
彼の絶望は、極端だが普遍的な人間の感情だ。
オルステッドが魔王オディオになっても、彼の人間性は完全に消えない。
最終編で彼は「誰か私を殺してくれー!」と叫び、倒されると人間の姿に戻る。
真エンドでは、塵となって消える彼の姿に、「人間オルステッドとしての悔恨と悲しみ」が感じられる。
彼は魔王として世界を憎んだが、同時に救いを求めていた。
この矛盾が、彼を一層「かわいそう」に見せる。
ストレイボウもまた悲劇的なキャラクターだが、彼の悲劇は自業自得の側面が強い。
嫉妬に駆られ、オルステッドを陥れた彼は、アリシアの自死を目の当たりにし、自らも命を落とす。
ストレイボウの行動は、自らの弱さが招いた破滅だ。
一方、オルステッドは他者の裏切りによって破壊され、能動的な悪意を持たなかった。
この受動的な悲劇性が、オルステッドへの同情を強める。
アリシアは、ストレイボウの策略と魔王像の影響を受け、オルステッドを拒絶する。
彼女の自死は、罪悪感と依存の結果だが、プレイヤーの多くは彼女に苛立ちを覚える。
彼女の選択は、オルステッドの悲劇を加速させた要因の一つだ。
しかし、アリシアもまた被害者であり、彼女の弱さがオルステッドの純粋さを際立たせる。
アリシアへの苛立ちは、逆にオルステッドへの同情を深める効果を持つ。
ハッシュとウラヌスは、オルステッドを支える存在だが、彼らも悲劇を防げなかった。
ハッシュは偽魔王を倒した後、力尽き、ウラヌスは牢獄でオルステッドを励ますが、死にゆく。
二人ともオルステッドを信じていたが、彼らの死はオルステッドの孤独を一層際立たせた。
彼らの無力さは、オルステッドがどれだけ孤立していたかを強調する。
オルステッドの悲劇は、裏切りと喪失という普遍的なテーマに根ざしている。
誰しも、信頼していた人に裏切られたり、大切なものを失ったりした経験がある。
オルステッドの極端な状況は、こうした経験を増幅した形で提示し、プレイヤーの共感を呼ぶ。
特に、「信じていたものに裏切られる痛み」は、年齢や時代を問わず響く。
『ライブアライブ』は、RPGの「勇者が魔王を倒す」という枠組みを壊す。
中世編は、プレイヤーに勇者としての期待を抱かせ、裏切りと絶望でそれを打ち砕く。
この構造の逆転は、プレイヤーに強い感情的インパクトを与える。
オルステッドが魔王になる瞬間、プレイヤーは「なぜこうなったのか」と彼の痛みを追体験する。
この感情の揺さぶりが、「オルステッド、かわいそう」という共感を生む。
2022年のリメイク版は、ボイスやビジュアルの追加により、オルステッドの悲劇性を一層強調する。
オルステッドの声優による感情的な演技、国民の罵声、赤い瘴気のビジュアルは、彼の心の崩壊を鮮明に描く。
特に、アリシアの拒絶やオルステッドの絶叫は、プレイヤーの心に直接訴えかける。
リメイク版をプレイしたファンは、オリジナル版以上に彼への同情を深めたと語る。
オルステッドの物語は、人間の脆さと憎しみの連鎖を描く。
彼の純粋さは裏切りによって砕かれ、憎しみに変わる。
このテーマは、ゲーム全体の「オディオ(憎しみ)」という概念と結びつく。
オルステッドは、誰もが魔王になり得る可能性を体現する。
彼の悲劇は、プレイヤーに「自分もまた憎しみに囚われるかもしれない」と考えさせる。
オルステッドは正義の勇者だったが、魔王となる。
この転換は、正義と悪が表裏一体であることを示す。
ゲームタイトルの『LIVE A LIVE』は、逆に読むと『EVIL A EVIL』になる。
この二面性は、オルステッドの悲劇を通じて、善悪の境界の曖昧さをプレイヤーに問いかける。
彼の「かわいそう」さは、悪役にも人間性があることを気づかせる。
最終編の真エンドでは、オルステッドは倒された後、塵となって消える。
彼の最後の表情には、悔恨と安堵が混じる。
この結末は、彼が魔王としてではなく、人間オルステッドとして救われた可能性を示唆する。
プレイヤーは、彼の死に悲しみつつも、解放された彼に希望を見出す。
この救いの可能性が、オルステッドへの共感を一層深める。
オルステッドの悲劇は、裏切り、喪失、孤独、そして憎しみの連鎖によって織り成される。
彼の純粋さは、ストレイボウの嫉妬、アリシアの拒絶、民の糾弾によって踏みにじられ、魔王オディオへと変貌する。
しかし、彼の人間性は最後まで残り、プレイヤーに深い共感を呼ぶ。
オルステッドが「かわいそう」な理由は、以下の3点に集約される。
純粋さの破壊:彼の信頼と正義感が、裏切りによって無残に砕かれたこと。
孤独の極点:全てを失い、誰にも理解されない絶望に呑まれたこと。
人間性の残滓:魔王になっても、救いを求める人間オルステッドがいたこと。
オルステッドの物語は、プレイヤーに人間の脆さや善悪の曖昧さを考えさせ、25年以上経った今も心を揺さぶる。
彼の悲劇は、誰もが共感し、誰もが恐れる普遍的な物語なのだ。
『ライブアライブ』中世編は、オルステッドの悲劇を通じて、プレイヤーに深い感情を呼び起こす。
あなたはオルステッドをどう思うか? 彼の絶望に共感し、彼の救いを願うか? それとも、彼の選択に別の道があったと考えるか? リメイク版をプレイして、彼の声を聞き、彼の痛みを追体験してほしい。
そして、オルステッドの「かわいそう」さに、あなた自身の答えを見つけてみてはいかがだろうか。